よかばい堂、銀行借入をするの巻
古本屋のような零細な仕事をしていると銀行との付き合いはさほどない。ネット販売の売上金が振り込まれたり、公共料金やクレカ支払いの引き落としぐらいのものだ。サラリーマン時代に借りた住宅ローンも終わったので、数年前までは銀行とは特段の付き合いはなかった。
それがコロナ禍の中で始まったコロナ融資から様子が変わった。何せ無担保無利子融資と言うのだから借りない手はなかった。中には借金自体が悪だという考えで無借金経営を貫く人もいるが、私はそうは考えず借りたのだった。当時は電話一本で、というのもあながち大袈裟な表現でなく、実に簡単に融資を受けることができた。
すると、手持ちの資金が潤沢になる。潤沢だと今まで見向きもしなかった話が現実味を帯びて見えてくる。ひょっとしたら、自分でも買えるのではないか? いや今すぐだって買えるじゃないか!
もちろんここで言う「買う」は、クルマや消費財のことではない。そんなものは買っても単に消費するだけだ。そうではなく商売として、つまり収益を生むビジネスに投資をするという意味だ。
こんな話が舞い込んできたのだった。サラリーマン時代の先輩が自分の保有する不動産を手放したいという。年もとったしゆっくりしたいので、現金化したいのだ。彼はその土地を駐車場として貸して一定の収入がある。念入りに計算すると数年で投資金額を回収できると見込め買うことにした。不動産投資というやつだ。
念のために銀行に相談してみると、融資してくれるというので、新たにまた借り入れることにした。
なるほどコロナ融資での金あまりというのはこういうことを言うのかと実感した次第だ。
コロナ融資を受けて手元資金が潤沢だったからこそ先輩の話を本気で聞くことができたのだと、今にして思う。もしもあのとき無借金経営を貫き安定的ではあるが細々とした商売を続けていて、手元に資金がなかったら、先輩の話は聞き流していたにちがいない。
古本の本業に投資するのが本筋ではないかとお叱りを受けそうだが、今の弊店の買い取りでは古本を仕入れるのに数百数千万を使うことはまずない。
たしかに東京の古書組合が行う大きなオークションでは数百万数千万仕入れる古本屋もいる。しかし、売りさばく力や保管するスペースを持たない自分がその真似をすることはまだできない。それこそ不動産投資以上にリスキーだ。
古本屋の一方で不動産賃貸も行なうのは多角化による事業の安定化だから、合理的な経営判断だと考えている。じっさい脱サラしてすぐにアパートを一軒購入した。開業したてで不安定な時期でもあったし、こうした工夫は欠かせない。
古本屋といってもさまざまなタイプの人間がいる。この商売を始めた動機も千差万別だ。今では少ないが、昔は手軽に儲かるから参入してきた人もいたと聞く。なるべく楽がしたいからあまり働かず自分一人が食えればいいという人もいる。古本道(?)を究めたい求道者タイプもいる。
私は会社員の息苦しさから逃れるようにしてこの商売にたどり着いた。もちろん本が好きだから選んだ道でもあるが、自分だけでなく家族を扶養するためでもあり、最初からビジネスとしてやり抜くつもりでいたので、事業の多角化は必然だと思っている。