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月刊フォーNET 連載コラム 「ネット古本屋のつぶやき」 9月号


9月 30th, 2024 | Permalink

 よかばい堂、セレンディピティを経験するの巻

 一度書いたことがあるが、福岡出身の作家のブレイディみかこさんの高校時代の恩師がF先生という方で、私も高校時代にその先生に習ったことがあった。

 先日店の売り物の『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』という彼女の著作を読んでたら、面白すぎてまさに巻措くを能わず、開店時間まで一気に半分読んでしまった。

 そういえばF先生のことがどっかに書かれてたなと思いネット検索してみると意外なことが判明した。F先生はなんと哲学者の滝沢克己のご子息であったとか。その人の本ならたしか店にも数冊あったはずだ、あとで探してみようと思い、後ろ髪をひかれつつ本を閉じ店に向かった。

 すると開店前から店の前でお待ちのお客様。あわてて開店して招き入れるとなんとその滝沢克己の本をお買い上げになった。なんたる偶然! もちろんそのお客さんとはその話をしましたよ。なぜ父親が滝沢なのにその息子であるF先生の苗字が違うのか、などなど。

 偶然の一致で思い出すことがもうひとつ。

 吉田博という福岡出身の木版画家がいる。戦前に活躍した風景画の版画家だ。久留米出身で修猷館を卒業している。恥ずかしながら私は知らなかったのだが、うちに本を買いに来た同級生のO君がその名前を教えてくれたのだった。戦前から日本よりも海外で活躍していたらしく、故ダイアナ妃も彼のファンだったとかで、背景に吉田博の版画をかけた彼女の写真がある。ご興味おありの方はネット検索してみてください。すぐに出てきます。

 その同級生から「吉田博の版画や絵が手に入ったら教えてね」と言われたので、その名を記憶に留めておかなければならないな、しかしすぐに忘れそうだなと思っていた矢先、なんと翌日にその吉田博の直筆画を買うことになったのだ。

 美術関係の本を売りたいという人の家に買い取りにいったら、大量の美術本とともに数枚の絵を見せられた。彼曰く「これは吉田博の直筆なんです」。なんたる偶然!きのう仕込んだばかりの知識がさっそく役に立った。先方は何と言っても美術関係で生計を立てておられる方。福岡の古本屋なら吉田博の名前ぐらい知っておいてしかるべきだときっと思っているにちがいない。前日までの私なら、「さあ」とか「へえ」とか言って誤魔化すしかなかったが、その日の私は違う。なんなって前日覚えたての知識がある。久留米出身、修猷館卒、ダイアナ妃のお気に入りなど、仕入れたての知識を披露したら、あながち無知な古本屋でもなさそうだと思ってくださったのだろう、こちらの見立てた金額で売ってくださった。

 翌日、意気揚々と同級生のO君に電話して「吉田博がさっそく手に入ったよ」と報告。あまりにも早い展開に彼も驚いていたが、絵を見ると「確かに吉田博のタッチやねえ」と言いつつ買ってくれた。こういうのをセレンディピティというのだろうか。

 しかし、悲しいかな加齢によりこの原稿を書くときには吉田博の名前が出てこなくなっており、ネット検索の助けを借りたのだった。

 

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