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月刊フォーNET 連載コラム 「ネット古本屋のつぶやき」 2月号


よかばい堂、リアル店舗顧客百態

 古本好きというのは一定数いるものである。店をやるとそれが可視化されて興味深い。ネット商売だと、どこの誰が買ってくれているのか顔も知らないが、リアル店舗ならば、顔もわかるしときには雑談を交わすこともある。商売の醍醐味とはこれなのかもしれない、などと早くも調子のいい発言をしてしまった。とにもかくにも、サラリーマン家庭で育ち、自分もサラリーマンを21年経験し、脱サラ後もネット商売を19年。接客ということをしたことがなかったので、実に新鮮だ。

 さっそくリピーター客もできた。ほぼ毎日来店し一二冊買ってくれる。最初は数学の本ばかりだったが、いまでは人文系の本も買うようになって来た。

 もうひとりは、年季の入った古本好きの年金生活者で、私の知らない昔の福岡の古本屋事情にくわしい。話好きで店の中ではずっと話し続けている。独り住いで話す相手が居ないからかもしれない。

 別の年金生活者は時折り現れては昔の雑誌や漫画などを買ってくれる。閉店した文具屋で仕入れたばかりで値付けしていないビックリマンシールのパチモノを目ざとく見つけ、「これいくらですか?」と聞く。まだ値付けしてないというと、付けたら教えて欲しいと言う。よく見るとそのシール5種類もある。こういう人はコンプリートしたがるから、まとめ買いをしやすいように少し安く価格設定する。後日ご来店で5種類あるもの全てを買っていった。

 古本好きというと、オタクっぽい人や学者や研究者のような人を思い浮かべるかもしれないが、必ずしもそうでもない。特に若い人にはファッションの延長として昭和の風俗に興味をもっているような、比較的ファッションに対して感度が高い人も目立つ。

 先日は古めかしいバイクでやってきた青年が何冊もまとめ買いをしてくれた。「渋いバイクですね」と言うと、「そう見えますか、うれしいな。実はこれスーパーカブなんですよ。一生懸命汚しました」という。なるほどダメージジーンズみたいなものなのか、あえてビンテージっぽく仕上げているのだ。

 後日軽トラの荷台に別のバイクを載せて再度のご来店。今日はクルマなのでたくさん買える、と言いつつ前回の倍ほど買ってくれた。その中の1冊が小田実の『何でも見てやろう』のオリジナル版。カバーと帯もついている。

 フルブライト奨学金を受けてアメリカ留学をした著者が、留学後に帰国用航空券と数百ドルを元手に世界旅行をした経験を書いた同書は、1958年に初版が出たベストセラー。いまも講談社文庫で読めるいわば「古典」である。

 その本のオリジナル版を若い人が買ってくれるとこちらもうれしい。テキスト自体はいまでも文庫で読むことはできるけど、当時の姿で残っている本には時代の空気を伝えてくれる別の何かが詰まっているのではないか。そう思ってちょっと不安ではあったが店に置いてみたら、意が通じたのか、買ってもらえたのである。じっさい彼は文庫本はすでに持っていると言っていた。こういう交流は楽しいものだ。

 先日は古い洋館から買い取ってきたちょっとエロティックな古い洋書をためしに店に置いてみた。本来はネットで販売する高めの本なのだが、もしやと思い店に置いてみたところ、狙い的中。カウンターに並べていたら、例の得意客が2冊とも買ってくれた。いやあ、まさか2冊とも買ってくれるとは思わなかったというと、ばかにしちゃだめですよー、こういう良い本をもっと置いてくださいよー、とうれしい言葉でたしなめられた。

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