ついに南区寺塚にリアル店舗をオープンした! 店舗名は「古本よかばい堂アウトレット店」。とはいっても華々しいオープニングイベントはなく、開店準備しつつ値付けを終えた棚から順次公開してきただけで、年初から何とかそれっぽくなったから開店と名乗っているだけだ。
店を持つと客と話ができて愉しい。いろんな客がいろんな話をしていく。これは案外コラムのネタの宝庫となりそうだ。
さて今回は棚づくりをしていて見つけたネタである。話をする前に店舗の概要について触れておこう。
わがアウトレット店は、ネットで売りづらい安価な本をゆくゆくは無人店舗化して売ろうという野心的(?)な試みの店だ。売る本の原価はほぼゼロで、主な経費は家賃のみという極めて特殊な形態だ。そのからくりについて触れてみよう。
ネットで20年近く商売を続けてきたよかばい堂だが、新聞広告を続けてきた甲斐あってか、同業他店より買い取りが多いのが特色のひとつである。だが、仕入れた本のすべてが商品になる訳ではない。特にネットで売る場合は出品や梱包・発送に手間がかかるので、安価な本はネット売りになじまず、やむなく手放すことになる。今までは同業者に極めて安く卸売りしてきた。
しかしそんな本でも催事に出せば数百円で売れることは経験的に知っていた。適切な売場さえあれば商品となるのだ。
そこでこの〈ほとんど原価のかからない本〉を売る店を作ることにした。どうせやるなら新しい試みとして無人店にしてしまえばどうだろう。監視カメラやセルフレジ などテクノロジーを活用すれば可能だろう。人件費をかけない店なら家賃プラスアルファが回収できれば成立するはずだ。古本なんて盗んでも食えるわけじゃなし、上記の理由で店に置くのは安い本ばかりで転売価値もほぼないから盗む奴なんかいやしないだろう、というわけだ。
さて、思惑通りにことが運ぶかどうかは今後の展開次第。
話を戻そう。棚の準備をしていて、ふとした思いつきで古い本を発行年ごとに並べてみたところ、これが妙な効果を生んで面白い。並べたのは主に戦中から戦後にかけての本。戦後は昭和20年から1年ごとに並べ見出しをつけた。
どう面白いかというと、戦後の焼け跡から高度成長期に向けて本の装丁やタイトルの変化がみて取れること。弊店にある古い本を並べただけだから、決して網羅的だったり歴史的に価値があるものばかりではない。たまたま手元にあったからという本ばかりだ。
たとえばここに『日本技術の母胎』という小冊子がある。B6版173ページの簡素な本だが、奥付をみると発行年が昭和20年10月10日とある。つまり敗戦から2ヶ月経ずに出ている。米軍の爆撃で日本の多くの都市が焦土化し、街中に遺体がごろごろしていたのではないか。都市では戦災孤児が街に溢れ、かっぱらいや物乞いやモク拾いをしていた頃かと思うと、何やら感慨深いものがある。中に目をやると写真があり、旧同盟国のドイツのフォルクスワーゲンやハーケンクロイツ、そう、中身は戦中のものだ。
そんな敗戦直後から高度成長期にかけて、世相の変遷が一望できて興味深い棚が出来上がったわけである。