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月刊フォーNET 連載コラム 「ネット古本屋のつぶやき」 2026年3月号

 Kさんはレコードコレクター、1万枚以上のコレクションを持っているらしい。歩くことが好きで、というか苦にならないらしく毎日数キロにわたって歩いている。自宅から半径数キロが彼の行動範囲で、安い食材を選んで買い歩いている。

 食材の調達だけでなく、趣味のレコードもブックオフやハードオフといった中古屋をまわってレコードを渉猟しコレクションを充実させてきた。

 その彼が400円均一で産地直送(土がついてるわけじゃないが、クリーニングしてない)のLPが置いてあるよかばい堂無人店舗を見つけたのは自然ななりゆきだった。そのうち彼は一日二回の散歩で朝夕ともよかばい堂に立ち寄って、レコードとCDの棚を見るのが日課となった。

 Kさんはよかばい堂店主と同い年。親譲りの家に一人で住み、レコードに囲まれて暮らしている。旧帝国大学を卒業したものの生来の学校嫌いのせいか就職はせず、フリーターのはしりだった。洋楽が好きで誰よりも詳しかった彼は自然と音楽関係で仕事を見つけてきた。一時は放送局のレコード室の主のような存在となり、番組の選曲を任されたりもしたという。

 彼は日に二度もよかばい堂に通い詰めるうちに、店主の雑駁な棚づくりに業を煮やしたのか、自分で棚を整理しようと決意する。無人店舗のよかばい堂だが、たまに店に顔を出す店主を捕まえて「CD、ジャンルごとに分けてもいいですか?」と尋ねて来た。

 よかばい堂店主としては断る理由などさらさらない。ウエルカムな提案だ。「そりゃもちろん、ありがたいお話ですよ。ぜひお願いします。ムリがない範囲でやっていただければ大変助かります」「自分もその方が見やすくなるから、あくまで趣味の範囲でやります」ということで、彼の作業が始まった。

 正社員にはならずフリーターで過ごしてきたとはいえ、さすがに旧帝大の理系出身の彼は、やることなすこと緻密かつ几帳面。CDの棚はみるみる整理され、ジャズ、クラシック、邦楽などジャンル別に並べ替えられさらに五十音順に整理されただけでなく、彼の整理はついにレコードにも及び、いまやどちらも整然とならんでいる。

 

 秋口になり妻と4日間の旅行に行くことになった。さてその間は店をどうするか。日中は無人でも構わないが朝夕は店の鍵の開け閉めが必要だ。そうだ、Kさんに聞いてみよう。彼は一日に二回よかばい堂によってくれる。その時に開け閉めしてもらえないだろうか。開店時間は店主がやるときだって正確に決めているわけではない。自分の都合で早かったり遅かったりするのだから、Kさんの散歩時間に合わせて多少前後してもかまわない。そこで彼に聞いてみることにした。

「Kさん、いまでも毎日朝夕このあたりを散歩されてるんですか?」

「ええ、ほぼ毎日このへんには来ますよ。ドラッグストア〇〇は豆腐が安いし、あっちのスーパーは野菜が安いし、そこはアジフライが〇円だし・・」

「じつはご相談なんですが、その散歩のついでに店の鍵の開け閉めをお願いできないでしょうか?いえ時間は適当で構いません。Kさんの都合で結構です」

「ああ、全然かまいませんよ。何時に通るかは日によって変わりますが」

 ありがたいことに彼のおかげで店は休むことなく続けられた。彼は固辞したが、仕事としてお願いするのだからと、ギャラを払ったのはもちろんである。

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