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月刊フォーNET 連載コラム 「ネット古本屋のつぶやき」 2026年4月号

 市内の老人ホームにお住まいの方より電話。クラシックのCDを売りたいという。あまり期待できないが、断る理由を考えるよりも近い場所だし行ってみることにする。
 受付を通ると立派なホームであることが感じられる。エレベーターで上がって部屋に入ると背の高いご老人が出迎えてくれた。
「いま子供が帰ってきていて、断捨離しようという話になり、彼がお宅のお店を探して連絡してくれたんですよ」
 小生と同年輩と思しき息子さんと、その奥方と思しき女性がダイニングテーブルに座っている。なるほど、これが親元に帰ってきてよかばい堂をネットで見つけてくれた息子さんなのか、と思いつつ目礼を交わす。
 部屋の奥にテレビとソファがあり、その前の小さなテーブルにはCDボックスが積み上がっている。見たことのないものばかりだ。海外のものらしい。モーツァルトの「Mozart Complete Edition」は170枚入り。バッハやヘンデルの大型CDボックスもある。いずれも海外製だ。どうやらこのご老人は海外生活が長かったらしい。そうこうすると、ダイニングテーブルから英語で話す声が聞こえる。声の主はご老人である。どうやらご子息の妻と話しているようだ。なるほど、長い海外生活の結果息子はその地で育ち、妻を娶ったのであろうか。
 さて、査定が終わり金額を伝えると一発で了承いただき商談成立。古物商法にのっとり、書類に氏名年齢等を書いてもらうのだが、年齢を見て驚いた。なんと99歳。よかばい堂史上最高齢の取引相手だ。
 電話で話した時も、近隣の道路の説明もきわめて明快かつ気遣いのある説明だった。買い取ったCDを箱に詰めて運び出そうとすると、さっと椅子から立ち上がり速足で玄関に向かいドアを開けてくれた。両手がふさがっている当方を気遣ってのことだ。なぜか息子夫婦はダイニングテーブルで談笑にふけっているのに、である。
 どう見てもタダものではないとしか思えない。帰ってから気になってご老人の名前をネット検索してみた。すると「案の定、海外の大学の名誉教授として名前が出ていた。さらには女性向けの雑誌のインタビュー記事も見つかった。なんと旧制中学時代の修猷館を卒業していると、その記事で知った。個人情報が特定されないように、これ以上詳細に書くことは控えておこう。
 さらにブログも書いておられる。読んでみたが、内容も論旨もはっきりしているし読みやすい。こんな99歳なら年を取るのも悪くないな、というかぜひともあやかりたいと思い、その後会う人ごとにこの話をしている。このコラムにも書いてしまった。ほんの数10分の接触で、わずか数回言葉を交わしただけなのに、これほどの影響を受けてしまうのだから、その影響力たるやすごいものがある。
 いや、ほんと、元気だったら何歳になっても悪くないものだ。 

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